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リウマチ足に対する関節温存手術
東京女子医科大学 膠原病リウマチ痛風センター 矢野 紘一郎

適応

  • 保存治療が無効な中等度以上の変形を有するリウマチ足

はじめに

前足部の手術はMTP関節を温存するかしないかで関節温存手術と関節非温存手術に分けられる。RAでは関節破壊を生じており関節を温存する意義に乏しかったため以前は関節非温存手術しか行われていなかった。
しかし近年のRA薬物治療と治療戦略のめざましい進歩により関節破壊をコントロールできるようになったため、現在関節温存手術が脚光を浴びている。ただし比較的新しい技術であるため、関節温存手術を施行できる施設は限られる。

関節温存手術の利点

  • 関節非温存手術では母趾が動かなくなる(関節固定術)や踏み返しができなくなる(切除関節形成術)などの欠点があるが、本術式はMTP関節を温存できるため、正常に近い足の機能(可動域や踏み返しなど)を残すことができる。。
  • 近年関節温存手術と関節非温存手術を比較した報告も増えてきており、関節温存手術のほうが主観的評価・客観的評価・機能評価などにおいて優れている。

手術手技

近年RA前足部変形に対する関節温存に関する論文は多数報告されている。主に中足骨を骨切りして変形を矯正することでMTP関節を温存する。骨切り方法に関しては多数の報告があるが、第1中足骨の回内変形が矯正できない・短縮量の調整が困難・別の関節を固定しなければならないなど、いくつか気になる点がある。
そこで我々はこれらの問題点を解決すべく、2010年に第1中足骨近位楔状回旋骨切り術を考案し、第2−5中足骨遠位短縮斜め骨切り術と組み合わせることで、良好な成績を得られている。以下に本術式の詳細を述べる。

体位:仰臥位にて大腿部を駆血した状態で行う。

①皮切と背内側皮神経同定

第1MTP関節背内側から第1中足骨上を通り、足根中足関節(TMT関節)に至る皮切をおく。皮下を展開し、まず背内側皮神経の同定を試みる。ただしこの神経の走行は多様性が多く、外反母趾の程度によっても走行が異なるため、同定が難渋する場合が多い。我々は、背側と底側の静脈をつなぐ「Sentinel vein」を同定し(図1)、その深層に存在する背内側皮神経を確認している。    

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    図1:Sentinel veinの深層に神経が走行

②外側軟部組織の処理

ついで外側軟部組織の切離に移る。第1中足骨骨頭外側を展開し、母趾内転筋を同定する。まず母趾内転筋(図2)を外側種子骨の付着部で切離する。外反母趾の矯正が不十分な場合には外側関節包の切開・深横中足靭帯切離・基節骨基部の母趾内転筋付着部切離なども追加し、徒手的に母趾が整復できることを確認する。    

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    図2:母趾内転筋

③第1中足骨近位楔状骨切り

第1中足骨基部を展開し、骨膜をレトラクトして中足骨近位骨幹端部を露出させる。TMT関節から遠位15mmの位置を楔型の近位端とし、術前計画で決定した角度の楔型骨切り線を中足骨上にマーキングする(図3)。その際、遠位骨切り面が骨軸と垂直となるような楔型にすることがこの術式の要点である(図4)。マイクロボーンソーで骨切りする際は、側面から見ても骨軸に垂直になるようにすることで、遠位骨片を回外させて骨切り部を整復する際に中足骨が背屈または底屈してしまうことを防ぐ。骨切り後、骨片を取り残しがないように摘出する。    

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    図3:骨切り部をマーキングする

  • 図4:骨軸に対して垂直に骨切りする

④内側関節包切開

背内側皮神経を背側ないし底側へよけ、第1MTP関節内側関節包を露出させる。最終的に中足骨遠位骨片は回外するため、回外位で内側に位置する関節包を近位凸のFlap状に切開し(図5)、基節骨基部の付着部まで反転する。    

  
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    図5:関節包はFlap状に切開する

⑤第2−4中足骨遠位短縮斜め骨切り術

ついでLesserの処置に移る。まずPIP関節に屈曲拘縮がある場合は、非観血的徒手的授動術を行う。第2MTP関節背側から第3中足骨上を通り、第4中足骨近位部へ向かうS字状の皮切をおく。神経・血管に注意して皮下を展開し、長趾伸筋腱(EDL)をレトラクトして第2中足骨上の軟部組織と骨膜を一塊にして縦切し、第2中足骨を露出させる。術前計画で決定した短縮量をマーキングする。なお第2〜4中足骨の短縮量は基本的に同量短縮している。マーキングの際は、遠位の骨切り面下端が骨頭に切り込まないことを意識して骨切り部を決定する。骨切り角度は骨軸に対して約45度とし、必ず遠位骨切り面から骨切りを開始する。遠位・近位を平行に骨切り後、骨片を摘出する(図6)。    

   
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    図6:中足骨遠位を2回平行に骨切りする

その後遠位骨片底側に鉗子を沿わせ、骨頭底側と胼胝の間の癒着を剥離する。これを行わないと胼胝に牽引されて骨頭が底屈してしまうため大事な処置である(図7)。以上の処置を行ってもMTP関節の脱臼整復が困難な場合には、背側関節包の切開・内外側関節包/側副靱帯の切離・短母趾伸筋腱(EDB)の切離を適宜追加する。それでも脱臼整復困難な場合や足趾が背側転位しやすい傾向が残存する場合は、EDLのZ延長を行う。

脱臼整復を確認できたら、助手に遠位骨片を把持してもらい、直径1.2mmのキリュシュナー鋼線(K-wire)を遠位骨切り面から逆行性に刺入していく。その際術者はK-wireの先端の位置を指先で感じながら、MTP関節・PIP関節・DIP関節の順に整復位を保持した状態でK-wireを貫通させていく。趾先部からK-wireを突出させたらK-wireを持ち替える。ついで術者は骨切り部の整復位を把持し、助手にK-wireを順行性にリスフラン関節まで刺入させる(図8)。この時前足部の横アーチが決定するので、術者はもう一方の手で横アーチを形作るように骨頭の位置を調整して把持する。同様の操作を第3・4趾列に対しても行う。

  • 図7:遠位骨片を持ち上げ、骨頭と胼胝の間を剥離する

  • 図8:K-wireで髄内釘固定する

⑥第5中足骨遠位短縮斜め骨切り術

外側に第5中足骨骨軸に沿った縦皮切をおく。皮下を展開し骨膜を縦切して第5中足骨遠位部を露出させる。術前計画で決定した短縮量をマーキングして遠位・近位の順に骨切りする。小趾の内反が強い場合はMTP関節の内側関節包や側副靱帯を切離する。第2〜4趾列と同様にK-wireを逆行性・順行性の順に刺入し骨切り部を固定する。

⑦術中透視による確認

①〜⑥までの操作を終了したら、下記項目を一度透視で確認する。
全て問題なければK-wireはbendingしてカットする。

  • MTP関節の脱臼は整復できているか? 整復不十分の場合はやり直す。
  • LesserのMTP関節の位置がアーチ状になっているか? もし突出している関節がある場合は、一旦K-wireを骨切り部まで引き戻し、中足骨短縮を追加する。
  • K-wireの近位端はリスフラン関節を越えているか?あるいは長すぎないか? K-wireの近位端が楔状骨・立方骨内に位置するように適宜調節する。
  • 第1MTP関節と第2MTP関節の位置関係はどうか?第1中足骨を仮整復し、第1MTP関節が第2MTP関節よりも突出している場合は第1中足骨遠位骨片の追加短縮量を決定する。

⑧第1中足骨遠位骨片の短縮

前述の透視にて第1中足骨遠位骨片の短縮が必要と判断した場合は、楔状骨切りの遠位骨切り面に平行に、骨軸に垂直に骨切りを追加する(図9)。LesserのMTP関節の位置に合わせて容易に第1中足骨の短縮を追加できることも本術式の利点の一つである。

 
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    図9:第1中足骨が突出している分だけ短縮する

⑨楔状骨切り部固定

まず1.5mmK-wireを遠位骨片背側に骨に対して垂直に刺入する。そしてこれを把持しジョイスティック的に用いて遠位骨片を回外+外転させる(図10)。この時母趾の爪が正中位を向くまで回外させる。また、骨切り部の整復は必ず内側の皮質骨同士が接するようにする。術者は以上のことを意識して骨切り部を整復し、助手に直径1.5mmのK-wire2本でCross-pining固定してもらう。
なおK-wire2本では固定力が不十分であることが多いため、遠位骨片に刺入してある把持用のK-wireを抜去して、それを用いて合計3本のCross-piningとしている(図11)。

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    図10:K-wireをジョイスティックのように回転させる

  • 図11:第1中足骨骨切り部は3本のK-wireで固定する

⑩術中透視による確認

再度透視で確認する。この際確認するポイントは以下の通りである。

  • Cross-piningしたK-wireが対側の皮質骨を貫いているか? mono-corticalでは固定力は著しく落ちる。逆にK-wireの骨からの突出量が多すぎてもいけない。
  • 種子骨の位置は骨頭下に整復できているか? 整復不十分の場合は、適宜原因を考察し対処する。骨切り部整復不良・不十分な回外・外側軟部組織の切離不足・楔状骨切りの角度不十分など。

⑪第1中足骨骨頭内側突出部の切除

骨頭の内側と背側の突出部を切除する。その際矢状溝を越えて切除してしまうと術後内反母趾変形の危険性が増すため、矢状溝を越えないように注意する(図12)。

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    図12:突出部の骨切りは矢状溝(矢頭)を越えないようにする

⑫第1MTP関節内側関節包縫着

術後ある程度は緩んでくるため、Flap状に切開した関節包は十分牽引した状態で中足骨頭に縫着する。その際、種子骨を確実に骨頭下へ整復させるために底側の関節包を外側へしっかり引き上げて縫着する。

⑬閉創

3カ所の皮切を用いた場合、まずは中央の皮切から閉創するようにしている。先に内側・外側の創を閉じてしまうと、中央の創は内外側から牽引されて緊張が強くなってしまうためである。ドレッシングは、趾間ガーゼを挟み、術創にはガーゼを当て、綿包帯を巻いた後弾性包帯を巻く。
なお趾間ガーゼの圧迫による足趾血行不良を生じることもあるため、K-wireが刺入されている足趾間の趾間ガーゼは薄めにする。

後療法

術翌日より、踵部荷重のサンダルを履いて踵歩行を許可する(図13)。術後2週で抜糸を行う。術後3週で趾先部より突出しているK-wireを抜去し、外反母趾矯正装具と足底板の着用を開始する。術後8週で治療靴と外反母趾矯正装具を終了し、前足部への荷重と可動域訓練を開始する。骨癒合を確認したらつま先立ちを許可する。

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    図13:踵歩行用のサンダル

手術のポイント

関節非温存手術の場合は全趾(第1〜5趾)を手術しなければならないが、関節温存手術の場合は関節破壊や変形のない足趾に関しては侵襲を加えないで温存することも可能である。

手術前と手術後

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    手術前

  • 手術後

このレポートは医療従事者向け教科書「リウマチ足の診かた、考え方(中外医学社)」を再編したものです。

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    リウマチ足の診かた、考えかた
    猪狩 勝則 監修 / 矢野 紘一郎 著